「もう、手遅れか?」

「え?」

「柚葉は、もう他の誰かのものなのか?」


どこか不安気にそう言った一ノ瀬さんの言葉に、一瞬頭がフリーズする。

それでも、その言葉の意味を理解した瞬間、反射的に首を横に何度も振る。

そんな私を見て、彼は安心したように小さく笑った。

その姿を見て、胸が苦しいくらい締め付けられる。

淡い期待がムクムクと大きくなっていく。


だって、こんな……。

こんな夢みたいな事、ある?


僅かに涙を浮かべる私に、ビー玉のような瞳がゆっくりと戻ってくる。

吸い込まれそうなその瞳には、泣き顔の私が映っていた。

そして、慈しむようにその瞳を細められた後、一ノ瀬さんは口を開いた。


「2年間ずっと伝えたかった言葉を、ようやく言える」


必死に言葉の意味を理解しようとする私に、彼は言葉を続ける。

ただただ瞳を揺らすだけの私を、真っ直ぐに見つめて。


「もう一度、俺の傍にいてほしい。柚葉」


その言葉に、息が止まった。

ポタリと意識とは別に涙が瞳から一粒落ちた。


あぁ、これは夢なのかな。

都合のいい、夢なのかな。