ガヤガヤと煩かった周りの音がシャットアウトされる。

雨の音も、雑踏も、何も聞こえない。

世界が私と、彼だけになる。


「――…2年、かかった」


僅かな沈黙が私達を覆った時、ポツリと言葉を溢したのは一ノ瀬さんだった。

ビー玉の様な瞳が微かに細められる。

変わらない精悍な顔がそこにはあって、思わず魅入ってしまう。


「全部終わらすのに、2年かかった」

「――」

「別れたんだ」


その言葉にコクリと一度頷く。

もう、何か言葉を発する事ができなかった。

頷く事で精一杯だった。


「でも別れて終わりじゃなかった。落ち着くまで2年かかった」

「……うん」

「仕事も、本社から異動になった」

「え?」

「自分で希望したんだ。初めからやり直したくて」

「――」

「本当は、すぐにでも会いに来たかった」


落ちた言葉に目を見開く。

甘いその言葉に、一気に胸が締め付けられて涙が出そうになる。

その言葉に、体が震える。


「だけど、全部ちゃんとしてから会いに行きたかった。嫁の事も、仕事の事も全部片付いてから」

「うん……」

「もう中途半端は嫌だったんだ」


そっと頬に添えられた手にピクリと体が反応した。

そんな私を見て、彼は優しく一度微笑んだ。