「風邪ひくぞ」



不意にそんな声が聞こえたかと思ったら、顔にかかっていた雨が止んだ。

それと同時に、ドクンと心臓が太鼓の様に鳴る。


どこか聞き覚えのある声に息が止まる。

まるで体が石の様に固まって、一瞬思考が停止する。

それでも弾けるように視線を上に向けた瞬間、大きく目を見開いた。


私を通り抜けた風が、懐かしい香りを運ぶ。



――・・・・・・待って。


ありえない。

そんな事、ありえない。

ありえるわけがない。


ねぇ、だって、おかしいよ。

こんな都合のいい事が起こるわけない。

そんな、御伽噺みたいな事、あるわけ。


だけど。

見間違えるはずがない。

その目、その口、その声は――。