「望月さん、昨日遅かったですもんね」

「本社の人も、無理して昨日来なくてもよかったのにね~」

「知り合いの方だったんですか?」

「そう。お世話になってた先輩」


考えないようにしても考えてしまう。

ちょっと油断した瞬間に、記憶がフラッシュバックする。

緑の世界が、雨の夜が、眩しい夜景が――。


「さ、仕事仕事~」

「頑張り過ぎですよ、望月さん」

「俊君もお菓子ばっかり食べてないで仕事しなよ~」

「ちょっ!! 誤解を生む様な事言わないで下さいよっ!!」


会いたいと思ったら、負けだ。

駆けだしてしまいたいと思ったら、負けだ。

寂しいと思ったら、負けだ。


俊君が自分のデスクに戻った事を確認して、一度強く目を閉じた。

真っ暗な世界の中で、心を無にする。


大丈夫。

もう、戻ったりはしない。

涙の日々には。