「望月さん?」


不意に呼ばれて我に返る。

途端に、音が無かった世界にガヤガヤとした音が一気に耳に飛び込んできた。


「何?」

「いえ、ボーっとしていたんで」


私の顔を心配そうに覗き込んできた俊君に、ニッコリと笑ってみせる。

それでも、訝しげに私を見る視線は変わる事は無かった。


「何かありました?」

「え?」

「なんかいつもと違うんで」


鋭い子なのか、単に私が顔に出しすぎなのか分からない。

だけど、しっかりしなきゃとだけは分かった。


「ちょっと寝不足でね」

「――」

「ゴメンね。ありがとう」


少しだけ垂れた目でじっと見つめてくる俊君。

だけど、諦めた様にいつもの様にニッコリと笑った。