「そっか」


呟いた私の言葉に、先輩はそれだけ言った。

そして、どこか気まずい雰囲気を打破するように、本社の私が知っている人達のここ最近の事について話してくれた。

だけど、話は全く頭に入ってこなかった。


グルグルと2つの言葉が頭の中を巡る。

久しぶりに聞いた、一ノ瀬さんの名前。

それを聞いた瞬間、胸の奥に仕舞いこんだはずの思い出が一気に津波の様に押し寄せてくる。

都合のいい事に、楽しかった思い出ばかりが。

それらから逃げる様に、強く一度瞳を閉じた。


だけど、浮かんでくるのは、もう一つの言葉。


『離婚』


別れたんだ・・・・・・。

その事に、複雑な気持ちになる。

幸せになっているものだと思っていた。

彼女の隣で笑っているもんだと。

そう思った瞬間、次の感情が湧き起こる。


『会いたい』


不意に沸き起こった感情を胸に押し込む。

ダメだ、と何度も自分に言い聞かせる。


でも、今の彼には会う事が許される。

彼は今、誰かのものじゃないのだから――。