「望月のせいじゃないよ」
瞳を伏せた私に、先輩がどこか強い言葉を発した。
その声に、ゆっくりと視線を上げる。
「望月との事が起爆剤になったかもしれないけど・・・・・・だけど、一ノ瀬さんの家庭は、ずっと前から壊れていたみたい」
「壊れて・・・・・・?」
「噂で聞いたけど、一ノ瀬さんは仕事中心の奥さんとは一年に数えるくらいしか会えていなかったみたい。もちろん互いの生活の事も把握できていない。おまけに、一ノ瀬さん自身も仕事が忙しいし、連絡も取り合っていなかったみたい」
「――」
「そんな中に愛があるとは私は思えない」
その言葉に、世界がグルグルと回りだす。
壊れていた?
結婚生活は、うまくいっていなかった?
愛は無かった?
だけど。
そうかもしれないけど――。
「だからといって、私のした事が許される事ではないです」
そう。
間違いが正当化される事はない。
どれだけ、何を言おうとも。