「望月は?」

「――」

「結婚は?」


どこか遠慮気味に聞かれた言葉に、ふっと笑う。

そんな事、ここ最近考えていなかったと思って。

恋とか結婚とか、そういったモノ――。


「私は全く」

「――」

「いい年なのに、家と会社の往復です」


ケラケラと笑った私を見て、先輩がどこかはにかんで笑う。

それでも、ゆっくりと真面目な顔になったかと思ったら、驚く事を口にした。


「一ノ瀬さんが、離婚したよ」


久しぶりに聞いた、その名前に笑顔が張り付く。

ドクンと大きく心臓が鳴って、微かに指先が震えた。


「り・・・・・・こん?」

「去年の冬にね。噂で聞いた」

「そう・・・・・・ですか」


ポツリと静かに落ちた言葉だったけど、頭の中は嵐の様だった。

思い浮かんだのは、緑の中で笑う彼の姿。

私の名前を呼んで微笑む、あの姿。