「ゴメン。もう決めた事なの」

「――」

「もう、揺らぎたくないの」


これ以上あなたの言葉を聞いたら、きっと私はこの決意を簡単に手放してしまう。

その胸に飛び込んで、溺れてしまう。

だって本当は、まだこんなにもあなたを愛しているのだから。


でも、それではダメだと決心したんだ。

だからもう、私の心を乱さないで。


真っ直ぐに彼の瞳を見つめ返す。

辛そうに顔を歪める彼に、もう一度微笑む。

愛していると、心の中で呟きながら――。


「ありがとう。さよなら」


掴まれた手を振り払って、その勢いのまま駆けだす。

彼に背中を向けて走り出した瞬間、我慢していた涙が零れた。

掴まれた腕の熱さが、心を締め付ける。

それでも、泣いている事を悟られないように、真っ直ぐ前を向いて駆ける。


何かを叫んだ彼の声から逃げる様に、走るスピードを上げる。

だって、私の足を止める様な言葉を聞いたら、きっともう前に進めない。

弱い私が、彼に縋ってしまう。


今にも縺れて転んでしまいそうになる中、必死に駆ける。

周りの視線を抜けて、ただ息苦しさも感じずに、駆ける。


涙が散る度に、私の心が凍っていく。

彼から離れる度に、私の心が死んでいく。

それでも、走る事を止めない。

これが、私の選んだ道だから――。