「行くね」


ハラリと握られていた手を離して、微笑む。

これ以上ここにいたら、離れられなくなる。


これが永遠の別れだと思うと心が引き裂かれてしまいそうだけど、仕方のない事。

私達は、これ以上一緒にいちゃいけないんだから。

それが私とあなたの『運命』なんだから。


「じゃ、行くね」


そう言って、ニッコリ笑う。

最後くらいは笑顔でと思って、意地でも震える頬を持ち上げる。

そして、ぐっと瞳に力を入れて、全てを振り切る様に踵をかえした。

それでも。


「――っ」


踵を返したと同時に、ぐいっと腕を掴まれて、その場に縫い付けられる。

ハッとして後ろを振り返ると、瞳を歪めて私を見つめる彼がいた。

そして、まるで決心したかの様に声を上げた。


「俺はっ――」

「奥さんの事、愛してあげて」


だけど、その言葉を遮る。

何も言わせない様に、どこか強い言葉で。


「一ノ瀬さんの優しさは、全部奥さんにあげて」

「――」

「私は、もう沢山貰ったから」


両手に持ちきれない程、貰った。

心が温かくなる程、十分貰った。

だから、これだけ持って生きていける。