「柚葉・・・・・・」


小さく呼ばれて、首を傾げる。

目の前には、見惚れてしまうほど精悍な顔。

大好きな、彼の顔。


それでも、その顔は悲しそうに、どこか辛そうに歪んでいる。

そんな顔をさせているのは私なのに、どこか嬉しく感じる。

そう思ってしまう私は、もう狂っているのかもしれない。


「その気持ちは、もう変わらないのか」

「――」

「もう、会わないって」


握られた手に視線を向ける。

ギュッと握られた指先を見て、握り返しそうになる。

だけど、もう迷ってはいけない。

そう決めたんだから。


彼のビー玉の様な瞳を真っ直ぐに見つめる。

吸い込まれそうだと思いながら、彼の笑顔を思い浮かべる。

クシャリとまるで猫の様に笑う彼の笑顔が大好きだった。

だから、ずっと笑っていてほしいと思った。

そんな悲しそうな顔、してほしくない。

誰よりも幸せになって、そうしていつも笑顔でいてほしい。


そして、たまにでいいから私の事を思い出してくれたら嬉しい。

楽しかった日々を、たまにでいいから思い出してくれたら。

『私』を忘れないでほしい。


「幸せになって、一ノ瀬さん。約束」


ねぇ。

例えどんなに離れても、二度と会えなくなっても。

繋いだこの手を、忘れないで。

刹那の間だけでも、一緒にいた事を忘れないで。

私を、忘れないで――。