この公園も、一緒に歩いた道も、何もかも。

あなたの笑顔が浮かんで、ずいぶん住みにくい場所になった。


あなたとの思い出に触れる度に、狂ってしまいそうになる。

増える事のない思い出を、擦り切れる程思い出して、そして壊れていく。

そんな世界の中で1人で生きられる程、私は強くない。

だから――…。


「今日で、さよならにしよう」

「――っ」

「もう、会う事はないと思う」


ダラリと垂れている彼の指先を、そっと握る。

途端に泣きたくなるのを必死に耐えて、笑顔を作った。


「今までありがとう、一ノ瀬さん。すごく、楽しかった」


楽しかった。

今まで生きてきた中で、一番楽しい冬だった。

出会った季節は寒かったけど、それでも彼の温もりがあったから、ちっとも寒くなんてなかった。

雨が私達に降り注ぐ度に、寄り添って傘をさした事が一番幸せだった。


今まで生きてきた中で、一番楽しい春だった。

あんなに綺麗な桜は見た事がなかった。

もしも、彼が小さな蕾だったら、私は絶え間なく注ぐ水になってあげたいと思った。

彼の為に、生きていきたいと思った。

その笑顔を守る為なら、なんだって出来た。


一緒に過ごした季節は短かったけど、それでも私にとっては毎日が輝いていた。

こんなにも誰かを愛せる自分を見つけさせてくれた。

こんなにも幸せだと思った事は無かった。


だから、出会った事に後悔はしていない。

これっぽっちも。