紛らわすかのように、へへっと笑う。

何も言わない彼は、そんな私をただじっと見つめた。


本当は聞きたかった。

ずっとずっと、聞きたかった事だから。

だけど、土壇場になって怖くなった。

意気地なしな私は、その答えを聞くのを止めた。


本当は知りたかった。

私の事を、どう思っていたのか。

少しでも、好きだと思ってくれたのか。


だけど、怖くて聞けなかった。

もし、期待した言葉が返ってこなかった時、きっと私はもう立ち直る事ができない気がしたから。


だったら、あやふやにして、夢を見ていたい。

綺麗な思い出の中で笑う、あなただけを想っていたい。

本当は『好きだ』と一言、言ってくれれば、それだけで生きて行けたのに――。


だけど、私と彼の未来はもう決まっている。

奥さんに知られてしまったあの日から、別れてしまった道はもう交わる事はないと分かっている。

これ以上、一緒にいる事は許されない。


だったら、最後くらい笑っていよう。

少しでも、彼の心に残っていたいから。

本当の気持ちなんて知らずに、楽しかった日々だけを思い出にして。