視線をふっと下せば、彼の薬指に光る指輪が見えた。

どこか馴染んで見えるソレが、胸を締め付けて泣きたくなる。

辛くて、悲しくて、切なくて、押し潰されそうで、思わず目を逸らした。


この指輪は、幸せの証だと思う。

永遠を誓い合った人達の、未来への約束だと思う。

私には、小さな約束すら、もう交わす事はできないのに――。


ただ、恋していただけなのに。

ただ、人を好きになっただけなのに。

どうして、こんなにもこの想いは罪なんだろう。

『不倫』だからと言われれば、それまでだけど――。


何もかも間違っていたと気づくのが遅すぎた。

自分の我儘のせいで、沢山の人が不幸になった。

それでも、この期に及んでこの人の事をまだ好きな自分が、哀れで、惨めで、恐ろしかった。


ふっと、一度瞳を閉じて心を落ち着かせる。

グチャグチャになっていた感情を抑え込んで、再び目を開ける。

目の前には、愛おしい姿。

その姿をじっと見つめて、口を開いた。


「……一ノ瀬さん」


そっと彼の冷たい指先を掴んで名前を呼ぶ。

何も言わずに視線だけ私に向けた彼の瞳を見つめ返す。