「おかえり」


驚いて足を止めた私を見て、小さく微笑んだ萌を瞳に映す。

ただ優しく微笑むその姿が、今の私の心を壊すには十分な威力を持っていて、胸の奥が締め付けられた。


「とりあえず、家に入れて?」

「――」

「ゆーず」

「・・・・・・うん」


言葉を紡がず立ち尽くす私に近寄って、顔を覗き込んできた萌。

サラサラの髪が地面に垂れる様子を見て、小さく頷いた。







「何回かけても電話にでないんだもん。心配したんだから」


部屋に入るや否や、ソファにバックを置いた萌が唇をすぼめた。

私の謝罪の言葉を聞いて、まぁいいけど。と呟いて大きな溜息と一緒に腰かけた。



そういえば、最後に会ったあの日は、一ノ瀬さんの奥さんに会った日だった。

すべてが終わってしまった、あの日だった。