ザワザワと聞こえていた騒音が聞こえなくなった。

いつの間にか仕事が終わって、帰路についた。

ヒソヒソ聞こえる声や、目を背けたくなる視線に耐えた。


ここ最近、仕事は全くはかどらなかった。

部長に呼び出されたあの日から何日か経ったが、噂は社内に回り、更に私の居場所は無くなっていた。


「はぁ」


自分の耳にも聞こえない程、小さな溜息が落ちる。

真っ暗な路地に一人佇む私は、どこか今にも消えてしまいそうな気がした。


重たい足を前に出して、家まで向かう。

だけど、見慣れたマンションが目の前に迫った、その時――。


「柚葉?」


何の前触れもなく突然聞こえた声に、顔を上げる。

そして、見えたその姿に瞳を微かに見開いた。


「萌・・・・・・」


私のマンションの前に立つ、見慣れた姿。

その姿を見た瞬間、何故か言いようのない安心感が心を覆った。