「はい。どうぞ」
「さんきゅ」
湯気のあがるマグカップを渡して、彼の隣に腰かける。
音を無くした世界に、私達のお茶を飲む音だけが響いた。
「あ~暖かい」
「よかった。外、寒かったもんね」
「早く春にならないもんかね」
「でも、ほら。春になったら花粉が」
「あ、確かに」
ようやく2人きりになれて、互いが素の顔になる。
今思えば、やっぱり会社で見た顔はどこか凛としていて、常に気を張っている様だった。
「あ、そう言えば、この前ね」
会えなかった分の他愛ない話をする。
会った時の為に、とっておいた話を。
互いの話に相槌をうって、また話だす。
絶える事のない話声と笑い声。
――幸せ、だった。