「今、暖房入れるね」
すっかり冷えきった部屋の中を慌ただしく駆ける。
彼とそういう関係になってからは、部屋の中はいつも綺麗にしていた。
いつ、こうやって彼が来てもいいように。
「座ってて。今お茶淹れるから」
少し遠慮気味に入ってきた彼にそう告げる。
この部屋に入るのはまだ数えるくらいしかないから、彼がここにいる事に未だに違和感を感じる。
それでも、ここに来る度に思い出すのは、あの日の事――。
「ここに来る度に、なんだか思い出すな」
「ん?」
「あの雨の日の事」
「ふふっ。私も今全く同じ事考えてた」
ソファに掛けて、グルリと部屋の中を見渡しながらそう言った彼を見て、思わず笑ってしまう。
同じ事を考えていた事が、なんだか嬉しくて。