ただでさえ忙しいのに、こんな事で時間を取らせたら申し訳ない。

そう思って、慌てて預かっていた資料を手渡そうとした。

その時――。


「――んっ」


不意に唇に走った柔らかさに、体が動きを止める。

驚いて目を閉じる事も忘れた私の目の前には、愛おしいあの人。

テーブルを挟んで向こうにいた彼は、突然中腰で立ち上がり、私の片腕を掴んで引き寄せた。


久しぶりに感じる、彼の唇。

ゆっくりと瞳を閉じて、優しく舌を忍び込ませた彼のキスを受け止める。

それだけで、今まで感じていた寂しさが、まるで溶けていく様になくなった。


「でも、これで元気でた」


しばらくして、微かな水音と共に離れた唇の先に優しく微笑む彼がいた。

掴んでいた私の腕を離して、ゆっくりと頬にその手を滑らせた。