「セクハラ・・・・・・」
小さく悪態を吐きながら、手渡された資料を片手に急いでエレベーターへ向かう。
徐々に上がっていく頬を抑える事なく。
「ふふっ」
エレベーターの扉が閉まった瞬間、零れる声。
付けてあった名刺を手に取って、指で優しく撫でた。
今思い返せば、一ヶ月近く会っていなかった。
仕事が忙しい事もあったけど、彼から『会いたい』と連絡がなかったから。
私から『会いたい』とは言った事はない。
負担になりたくないから。
いつも聞き分けのいい子を演じるのは昔からかもしれない。
本当は会いたくて会いたくて、堪らないのに。
時間が空けば、会いに行きたいのに。
そんな素振り一つも見せない様にして、いつも振る舞っている。