「だけど望月はここにいる」

「――」

「キスもできる」


冗談っぽくそう言って笑いながら、瞼にキスを落とした彼。

その姿に愛おしさが湧き上がって、頬を持ち上げて彼の頬をそっと撫でた。

そんな私の姿を見て優しく微笑んだ彼は私の手を取って、今度は手の平にキスを落とした。


「ふふっ、寂しがり屋だったもんね」

「ご名答」

「寂しい時は呼んで。どこにいても飛んでいくから」

「それは俺のセリフ」


彼は単に寂しいのかもしれない。

仕事に明け暮れるパートナーが、自分を見ていない事に。

だから、いつでも会える私を側に置いているのかもしれない。

そう思った瞬間、虚しさが襲って胸が痛んだ。

それでも、それらを薙ぎ払うように目の前の彼にギュッと抱き着く。


そんな事、初めから分かっていたじゃないか。

それに、互いの寂しさの埋め合いだっていいじゃないか。

その場限りの愛でもいいじゃないか。


私を抱きしめてくれる彼が、今ここにいる。

私だけに微笑んでくれる彼が、今ここいいる。

それが、何よりも奇跡に近い事だから――。


「私、もう聞かないから」

「――」

「奥さんの事、もう聞かない」