顔を上げた瞬間、少しだけ悲しそうに微笑む彼がいた。

見惚れてしまう程、整ったその精悍な顔立ちが淡い照明に酷く似合っていて、思わず魅入ってしまう。

まるで魔法にでもかかった様に、何も言えずにただただ彼を見つめ返した。


「この前、誰かに何か聞かされた?」


まるでお酒に酔ったかの様にボーっとする私の頬を優しく指で撫でて、彼が小さく首を傾げた。

吸い込まれそうなその瞳を見つめて、小さく声を上げる。


「――美人の、キャリアウーマン・・・・・・だって」


声に出した瞬間、胸が締め付けられた。

幸せな空間にいると時々忘れてしまう。

この人が、『誰か』のものだって事――。


「ごめんなさい」

「――確かに、仕事のできる人だよ」


重たい空気を感じて、思わず誤った私の声に被せる様に一ノ瀬さんの声が響いた。

一度伏せた瞳をゆっくりと元に戻すと、変わらず私を見つめる彼がそこにいた。