「落ち着く」

「え?」

「望月の匂いがする」

「ふふっ。何それ」

「いい匂い」


そう呟いて、私のこめかみにキスを落としてから、彼は私の手を握った。

互いに何も言わずに、目の前の夜景を見つめる。

それでも、ゆっくりと振り返って微笑んだ私を見て、彼も応える様に優しく目を垂らして笑った。


しばらくして、互いに導かれる様にベッドに向かう。

真っ白なシーツに包まれて、互いの肩に顔を埋めて笑い合う。

まるで子供の様にじゃれ合ってから、見つめ合って何度も何度も甘いキスをした。


それでも、彼は私を抱かない。

いつも、キスだけ。

今日も、ただ優しく抱きしめて髪を撫でていた。

愛おしむ様に、何度も何度も髪をすいた。


他愛ない会話が、小さな灯りだけ灯った部屋に漏れる。

壁に映る私達の影が、笑う度に小さく揺れた。