「行くぞ」


一瞬躊躇した私の腕を引いて、大きな黒の傘の中に潜り込む。

顔を隠す様に深く傘を自分達に引き寄せて、2人並んで歩く。


まるで私達を隠してくれている様だと思った。

この黒い傘が周りの目から、私達の姿を隠している。


少しだけ視線を上げれば、白い息を吐く彼の横顔が見えた。

その姿が、いつか見た光景とソックリで胸が暖かくなる。


「ふふっ」

「どした?」


突然笑いだした私に、彼が首を傾げる。

黒いビー玉の様な瞳が私を覗き込んで、微かに細められた。


「なんだか懐かしくて」

「何が?」

「一ノ瀬さんと再会した日も、こんな雨の日だったと思って」


そんな私の言葉を聞いて、彼も思いだしたかの様に『あぁ』と含み笑いを溢した。