◇
「・・・・・・ハァ」
真っ白な息を両手に吹きかけて、擦り合わせる。
街灯の少ない場所に立って、行きかう人々を見つめた。
急いで仕事を終わらせて、崩れた化粧を直す。
横に流していただけの髪を綺麗に巻いて、真新しいコートに身を包んだ。
いつぶりだろう。
こんなに胸を躍らせながら、誰かを待つのは。
長年付き合っていた彼氏とはマンネリになり、会う事が楽しみで仕方ないといった感情はなくなっていた。
こんなに、お洒落をしたり。
少しでも綺麗に見せたいと思う感情は、久しぶりだった。
恋をするのが、こんなに楽しかったなんて。
ここ数年、ずっと忘れていた。