「気が付いたの?良かった。ここがどこだかわかる?」


看護婦さんは私が目を開けてるのを見て、驚きながらも嬉しそうに言った。


そして私の手元に置いてあったナースコールのボタンを押し、人を呼んだ。


私はその工程をぼんやりと見つめていた。


「ここがどこかわかる?」


看護婦さんは私が答えなかった問いをもう一度優しく聞いた。


「病院…?」


私は小さく言った。声が思うように出なくて、自分でもびっくりする程小さな声だった。



「そう、病院。自分の名前言える?」



その質問に私はぐるぐると思考を巡らせる。


自分の名前。


私の名前。


なに一つ思い出せない。一文字でさえ思い出せない。


病室の外でバタバタと数人の足音がこちらに向かってくるのを聞きながら、私は再び声を絞り出す。



「分からないです。」