思い出せない。
なにもかも。
自分がなぜここにいるのか、自分は誰なのか。
病院独特の苦いような現実的な匂いが私の気持ちを更に焦らせた。
私は目だけ動かして周りを見渡した。
窓から見える景色はビル一つない。田んぼが広がっている。階数は上のほうにいるみたいで、道路に走る車が小さく見えた。
曇りがかった空が太陽をほんの少し隠している。
雨が降りそうで、降らなそうな微妙な天気だ。
病室のドアは閉まっていて、少しだけ雑音が聞こえた。
人の足音、話し声、車椅子の音。ピーピーとかすかに機械音も聞こえる。
私は視線を天井に戻し、点滴の液が一定の速度でゆっくりと落ちるのを見つめた。