クリスマスの日に、ツリーを見上げて




私が住んでるところでは、今日雪が降った。


それが、何十年ぶりかのホワイトクリスマスだったらしく、周りの友達はみんなはしゃいでいた。 もちろん、私も。



今日は、ツリー見に行かなきゃ。



誰と約束したわけじゃないのに、心でつぶやく。



学校から帰ってきてすぐ、服を脱ぐ。


少しおしゃれをしよう。 なんて。



友達にツリーを見に行こうと誘われたけど、断った。


一人で見ていたい。 見れる限り。飽きるまで。


そう思ったから。






お気に入りのスカートに、お気に入りのコート。お気に入りのブーツに、今年買ったばかりのマフラー。


極めつけは、少し高かった色付きリップ。


今日は「お気に入りコーデ」だ。


好きなものであふれてる。 なんて幸せなんだろう。



家から30分くらい歩いたところにある広場を目指して家を出る。


ほっぺたを突き刺すような冷たい空気。


雪はパラパラと降っていて、少しだけ積もってる。


でも多分、明日にはなくなっちゃうな。




広場のツリーは、もちろん屋外にある。


きっと今日はツリーのイルミネーションと雪が合って、いつも以上にきれいになるんだろうな。


考えただけで足が速まる。


あぁ、早く見たい。







広場につくと、たくさんの人がいた。


そのほとんどはカップル。他は多分友達同士。


一人で来てるのは私だけ。


まあ、そりゃそうだよね。



ぼんやりと突っ立ってツリーを見上げる。


キラキラと次々に色が変わるツリーを見ていると、何もかもがどうでもよくなっている。


周りの人とか、寒さとか。そろそろ来るであろうテストとか。



ああ、きれいだなあ。




「あっ」



ブチッ



突然首を引っ張られたと思ったら、嫌な音がした。



「ご、ごめんなさい!!」



やっぱり...。さっきまできれいな編み目だったマフラーがバラバラになってる。



「あ、当たっちゃったみたいで、金具に引っかかってこんな...、ごめんなさい!!!!」



相手は少し年上かなってくらい。大学生...くらい?


少しかわいい顔をした、男の人だった。



「大丈夫ですよ!そちらはお怪我ありませんか?」



平静を装って笑顔で返す。


別に大丈夫なわけじゃないし、買ったばっかりだったから少し惜しいけど。


また買えばいい。


そこに怒って怒鳴り散らすほど私の心は狭くないし、きれいなツリーの前でそんなことしたくない。みっともないもの。



まあ今回に限ってはツリーに免じて許そう。



「大丈夫ですよ!そちらは?」


「私も大丈夫です!」



ああよかった。そう呟いて微笑んだ彼の笑顔はきっとホンモノ。


私の愛想笑いなんかと大違い。







「では。このマフラー、結構古いので本当に大丈夫ですよ。そろそろ買い替えようと思ってたし。ちょうどよかったです。」



これ以上自分のみじめさを実感したくなくて、優しい彼に嘘をついて話を切り上げる。


もうツリーはいいかな、今年ももう見納めだ。


もう一度ツリーを見上げなおして、家に帰ろうと後ろに向く。



「あの!!」



歩き始めた瞬間、大きな声を出されて驚く。声の主は彼。



「どうしたんですか?」


「一人だったら、少しだけ僕に付き合ってくれませんか!?」


「え...?」



突然言われたことものだから、うまく返すことができない。



「あ、えと、いいお店知ってるんです。僕からのクリスマスプレゼントとしてもらってください」



私に不審者だと思われたとでも思ったのか、慌てて彼は言いつくろった。



さっき会ったばかりの人からクリスマスプレゼントなんて、絶対おかしい。


でも、彼はきっと嘘がつけない。


それが証拠に、「いいお店がある」って言った後に「しまった」という顔をした。


きっと、いいお店なんて知らないんだろう。


現に今も、手を組んで考え込んでいる。


頑張って過去の記憶から探そうとしてるんだろうな。



そこがとってもかわいく見えてしまう。



「いいですよ。行きましょう」



彼に追い打ちをかけるように声をかけたあたり、私は相当嫌な女だ。






「あ、あれ!?ここら辺にあると思ったんだけどなあ...」



彼の口からこの言葉が出てきたのは三回目。


コピペのように毎回同じ言葉が出てくる。


テンパってるなぁ。


そんなに、慌てなくてもいいのに。



「私、いいお店知ってるんです。一緒に行ってくれませんか?」



いい加減、彼がかわいそうになってきたので口を出す。


私の言葉をきいた彼は、ぱあっと周りに花が咲いたのではと思うくらい輝いた笑顔になって、



「いいですね!行きましょう!!」



元気な声でこう言った。



本当に嘘つけなさそうだなぁ。



「はい」



彼の言葉にこう答えてそのお店に向かって歩き始める。


彼の笑顔を見ていたら、私の愛想笑いは消えて、自然とこぼれる笑顔になっていた。





「ここです」


「へぇ~!すごいですね!」



店に入るなりそう呟いた彼に、私は吹き出してしまった。



「ぶふっ、何がですか?」



必死に笑いをこらえながら聞いてみると、私の様子に気づいていないのか、気づいていてわざとなのか、元気にこう言い放った。



「おしゃれな感じ!」


「なんですかそれ~!」



彼の返答を聞いて本格的に笑い始めてしまった。



「な、なにがおかしいんですか!?」



突然笑い出した私に驚いた彼は素っ頓狂な声を上げる。


どうやら気づいていなかったらしい。


そして彼の素っ頓狂な声が、余計に私の腹をくすぐった。



「あははは!」


「な、なんで笑うんですか~!」



あわあわしながらも私が落ち着くのを待ってくれた彼が優しいことは、もう知っている。


その優しさに少し甘えて、私は気が済むまで笑った。