「父さんも、大学生の頃に、亡くなったお前の母さんと出逢って恋に落ちた。

母さんは、大学教授という地位にあって、父さんとの関係が発覚した時には物凄いバッシングにあった。

その当時女性が大学教授になるには並大抵じゃなかったのに……

とにかく、スキャンダルが御法度だったから、教授と学生の関係なんて、蹴落としたい人間にとったら格好の餌食だった。

学生だった父さんをかばって、母さんは大学教授の地位を捨て、大学を辞めた。

あなたには未来があるからと……笑って父さんを手放した。

手放したんじゃなく、父さんは母さんの愛情いっぱいの中で守られていたんだ。

それに気付くのに時間はかかったけど、父さんは必ず母さんを迎えに行くと決めた。

けれど、今の地位を築き上げるのに時間は待ってくれなかった。

元々体の弱かった母さんは、心労がたたり病に倒れた。その時お腹にお前を宿していた事を知った。

そんな体でもお前をどうしても産みたいと。

でも……

迎えに行って、生まれたお前を初めて見た時は、体が震えるほど感動したよ。

お前は父さんを見て、笑ったんだ!まだ目も見えないお前が!

この時全力でお前と母さんを守ろうと誓ったんだ!

しかし父さんは一つだけ過ちを犯した。

お金さえあれば家族を守れる!経済力に勝るものはない!と勘違いして家族を顧みず、愛情を注ぐのをおろそかにしてしまったんだ。

それが今のこの有様、、結果だ。

お前と母さんには淋しい思いしかさせていない。

死に間際、「徹を頼みます!あなたの愛情でいっぱいにしてあげて」と母さんは父さんに託したのに、そう約束したのに……

約束を守れなかった。

だから、お前は父さんのようにはなるな!いいな?

お前の母さんはよく三つまでお前を育ててくれたよ。あの弱った体で懸命にお前に愛を注いだ。

いいか?徹!忘れてはいけないのは、相手を守るための経済力はもちろんの事、相手を思いやれる包容力が男には必要なんだ。

優しさじゃない!男意気と言う包容力を身につけろ!

父さんと母さんの子だからお前はきっと強い立派な大人になれる!」


哀しさに堪えて震えるオレに、親父は肩を強く抱きしめ、オレの頭を荒っぽくではあったけれど、撫でてくれた。

思わず涙が溢れ出た。親父の言葉はずっしりと胸に落ちて行った。

オレを、母さんを愛してくれていたんだと実感した一瞬だった。