考えてみたら黒い影は幸せだった時から忍び寄っていた。

誰かに見られていたような感覚はあの時からあったのに、見過ごしていた。

紅葉デートでも、人混みに紛れた怪しい人影。

クリスマスの日も、ツリー越しから鋭い視線を肌に何となく感じた。

熱を出して先生が来てくれたあの日も、先生が「誰かに見られてたみたい」と言ってたのを思い出した。

後になって違和感を覚えた事が多々あった。

オレは、オレに関わった先生もはじめからマークされてたんだ、歪んだ感情の持ち主に。

いつかの放課後も、先生と話してる時、柱越しに鋭い視線を送ってた奴がいた。

その視線に気付いた先生は、おぞましいものでも見たかのような形相をして、小声で、


「鈴木先生がじっと見てる……」


オレの肩越しにそう言った。

オレもゾッとしたけど、平静を装って、授業の内容や勉強の事をそいつに聞こえるように話した。

その時は本当に勉強の話をしてたから。

きっとオレを追い詰められたことに、証拠まで叩きつけることも出来て、どこかでほくそ笑んでいるだろうよ!

もちろんオレ達は学校では居づらく、顔を上げて歩けない状態でいる。

先生は職員室でも……廊下ではすれ違い様に根性の悪い生徒には、淫乱教師!不潔呼ばわりされるようになった。

けれど、先生はあの日の月下美人のまま、凛とした態度で臨んでた。

オレの前ですら、弱った顔なんて見せることはなかった。

むしろオレの方が、仕掛けた相手の思うつぼな態度だった。

唯一変わらなかったのは北嶋だけだった。

そして梁瀬には、失望させてしまった。