しばらく扉の前に座り、声を殺して泣いた。

ポケットの中のスマホが着信音と共に震えてる。

見ると先生からだ。



出てみると、


「どうしたの?返事もないし電話してもなかなかでないし大丈夫なの?」


心配と不安の入り混じった声。

その扉の向こう側で大好きな人が話してる。胸にじ~んと染み渡る声。

声を出せば泣いてるとバレてしまうから、相手には分かるわけないのに、うなづくしかできないオレ。

「聞いてるよ?先生」の一言が返せない。


カチャ……

静まり返った通路に鍵の開く音が響いた。


扉が背中を押す。


「一条君……」


振り返ると、逢いたくてどうしようもなかった人が顔を覗かせた。

オレは立ち上がり、先生と向き合った。


「泣いてたんでしょ……何となく来てるって分かってたよ」


何も言わなくても分かってくれてる。


「風邪ひくよ」


先生はそう言うとオレを部屋に引き入れた。

オレはその勢いのまま先生を抱きしめた。


「一条君?」


「先生、ちょっとだけこのまま」




そっと優しくオレの背中に、先生の温かな手が回った。