うっすらとしか覚えていない母さんの記憶。

懐かしくて泣きそうになった。

何度も何度も髪を撫でる、先生の優しい手がその時の母さんの手と重なる。


「もう泣かない、もう泣かない……」遠い母さんの声。


母さん……。


なぜか頬を伝った涙も、先生の優しい手が拭った。

その手が切ない記憶(痛み)を和らげてくれた。


熱が下がって目を覚ましたら、先生がベッドに手をついて眠ってた。

夢かと思っていたらそれは夢じゃなく、現実だった。

朝、目が覚めて誰かが横にいるって、こんなにも温かい気持ちになるんだなと実感した。

しばらく先生の寝顔を見つめてると、すると先生は伸びをして目を覚ました。

目を開けた先生に向かって、


「おはよう」


声をかけた。

オレに気付くと、


「おはよう~眠っちゃった。一条君大丈夫?」


目をこすりながら寝ぼけた声で先生は返した。

そして、オレの額に手を当てて、


「熱下がったみたいね」


安心したように言った。

ホントに温かい……。

オレのために先生が作ってくれた、卵雑炊の味も忘れられない。

冷え切った部屋が息を吹き返したように、温かく穏やかな空気に包まれているようだった。