窓から少し西陽の差す薄暗い片隅で、先生は掴んでいたオレの腕そっとを離した。

そして、話し出した。


「一条君は何も分かってない。私があなたをどんな風に思ってたか。

何も感じてない訳じゃない。むしろ好意的に思ってた。

その年頃の割には自分を全面に押し出さない、相手の気持ちを優先する。

逆に全面に押し出してくれた方が笑って交せたのに、あなたは違った。

真っ直ぐに堂々と私を見据える、濁りのないとても綺麗な目で、私に話しかけてくれた。

その度に胸がドキッとした。

コンビニで会ったあの日の夜も、どれほど後ろ髪引かれたか。

それと、極めつけは、月下美人の横に添えてあったあの詩。

あんなに包み隠さずストレートに気持ちを綴った言葉は、今までに見たことがない。

あれが私の心を捉えた。

一途に懸命に接してくれるあなたに対して、惹かれて行く自分が怖かった。

その視線に、心のまま惹かれたら、私は私でなくなる!必死で!必死に抑えてた!

自分である前に、私は教師だから!」


はじめは、穏やかだった先生の声も、後半は訴えるように強めな口調になってた。


うつむいた先生。


まさかの先生の言葉にオレは何も言えない。

先生は何かを決意したような表情で、顔を上げてすぐ、


「だから、無駄なんて言わないで?大学に行って早く大人になって。

そして私を迎えに来て!

あなたと私の距離は何も遠ざかってない。むしろ縮まった」


切ない瞳でオレを見つめた。

そして、先生の手がオレの頬に優しく触れたかと思うと、唇が近付いて来た、スローモーションのように。

綺麗な唇が、オレの口を塞いだ。

それはとてもやわらかかった。

と同時に体に電流が走った。

おそらくこの時、先生のハートを手に入れた瞬間だった。