「一条君は、何か目標はあるの?」


「聞かれると思った。

オレは、今が目標かもしれない。

残念ながら先生の言う、一つの事に必死で頑張るとは意味が違うかも。

今は大学に合格する事が目標で、その先は見えない。考えてない。

いや、どうしていいか分からない。だから将来なりたいものがあるヤツが羨ましい。

勉強頑張ってるのも、動機は不純」


先生の顔をまともに見られなかった。


「例え動機が不純でも、大学に行くって気持ち、それ立派な目標だと思うけど?」


先生の視線を感じる。


「うん……」


「一条君は一人暮らししてるの?」


不意な質問にビックリしたオレ。

変に構えてしまって、その様子に先生は何かを察したのか、


「あぁ~、鈴木先生に聞いたことがあったから……一人で淋しくない?」


言葉を変えて続けた先生。


「もう慣れた」オレは問題を解きながら答えた。


「そう。ちゃんとご飯は食べてるの?」心配気にオレの顔を見て先生は言った。


「食べてるよ?これでも何とか自炊してる」姿勢変えず答えるオレ。


「そうなんだ。スゴイじゃない。私なんかすぐ外食になりがちで、コン……」


「コンビニ弁当!?」オレは先生の言葉にかぶせて言った。


思わず顔を見合わせて笑った。


「一人暮らしを決めたのは、母親の記憶を薄れさせないため。

それでなくても幼い時の記憶だから、アメリカなんかに行ってしまったら、

全部忘れてしまいそうでこわいんだ。あの部屋に幼い頃母さんが確かにいた!

オレが出て行ったあと、他の誰かがあの部屋で暮らしたら、

大事な思い出まで汚されるようで嫌なんだ。

ちゃんと今生きてる自分が大事ってことも分かってる!」


真面目にオレは自分の環境や親父の事なんかを話した。

きっと先生に聞いて欲しかったんだと思う。


「そうだったんだ」


先生は悲し気な目で微笑んで返した。