「遅いよ……」

泣きそうな顔で先生はオレを見上げて言った。


「ごめん」

うなだれるオレ。


終わった。オレの月下美人は枯れてしまった。


「まだこのマフラー持ってたんだ?

ちゃんと向こうでご飯食べてた?体壊さなかった?辛くなかった?」


先生はそう言うと、優しくオレの頬に触れた。


「捨てるわけがない!オレにとって何よりも大切なものだから。

それに先生に比べたら、オレは申し訳ないくらい幸せに暮らしてた。

けど、あえて言うなら先生に逢えない事が何よりも苦痛だった!

オレは先生を忘れられない。

けど、今先生が幸せなら、オレは先生を手放せる。

だって、好きな人が一番幸せじゃなきゃダメだから!」


言葉に嘘はなかったが、涙がこぼれ落ちた。


あの時先生もこんな気持ちだったの?――――そう思いながら。


「今?幸せよ?だってやっと一条君に逢えたんだから!

手放す?掴み切ってもないのに?また私を泣かせる気?」


「先生……」


「おかえり」


「ただいま」    


そして、オレはあの日のクリスマス、先生に贈れなかった小さなダイヤの指輪を、先生の指にはめた。


「オレと結婚してください」


「はい……」うなずいて、涙いっぱいこぼして先生は応えた。


オレは先生の頬を両手で覆い、涙を指で拭った。愛しむように。

そしてキスをした。何度も先生の唇の感触を確かめるように。