オレは恐らく気持ちを止められない。

南先生との幸せな未来が決まっているのなら、オレはまたぶち壊して早川先生を泣かせるかもしれない。

いや?あの頃のオレとは違う!泣かせたりしない!

もし泣かせるなら幸せの涙や感動の涙だ!

けど、何をどんな言葉を掛ければいいのか分からない。

口がうまく開かない。


「せ、先生……」わざと聞こえない音量で呼んでみた。


なぜか息が荒くなる。


「先生……!」少し音量を上げてみる。


アホらしくて自分に嫌気が差し苦笑した。



「先生――――!!」


叫んでしまった。

マンションに入ろうとしていた先生は、驚いて足を止めオレの方を向いた。

オレは駆け寄り先生の目の前に立った。



「い、一条君!?」

先生はびっくりしてオレを上から下まで見渡した。


「先生……」


しばらく沈黙が続いた。嫌な空気が流れた。

あの日のオレの月下美人が、香りを失くし、首を垂れる瞬間を迎えようとしていた。

すると次の瞬間


「もう先生じゃない」

恨めし気にオレを見て先生は言った。


「それ以外に呼び方知らない」

オレは俯いた。


「先生じゃない!」

オレを睨んで先生は返した。目が少し潤んでた。


「……ひ、瞳……さん」

小さく言った後、オレは左右に思いっ切り首を振って、


「早川瞳!あなたが好きだ!」