梁瀬がメイク直しをする間、オレは洗面台へ向かった。

入って行くと掃除中だった。別に用を足したい訳じゃなかったし、洗面台で身なりを直していた。

そこにいた作業員は寡黙に働いていた。

トイレ掃除の後、ゴム手袋をはめたまま手を洗い、除菌していた。

一体、除菌の意味は何なんだろうとオレは思った。


「お疲れ様です。あの、失礼ですが、なぜゴム手袋をはめたまま手を洗い、除菌されたのですか?」


その人に思い切って声をかけてみた。

突然声をかけたオレにビックリしたその人は、オレの方を向いた。

向くなりお互い更にビックリした!


「……!?」


そしてほぼ同時に、


「鈴木先生!」 「一条!」


忘れる訳がない!この顔!高校の時の担任!鈴木だ!


「元気だったか?一条。お前立派になったな?あのお前がな!

この会場で会えるとは思ってなかったが、偶然ってわけでもないか。お前の企画だもんな?」


相変わらず皮肉ったっぷりに鈴木は言った。


「お久しぶりです。オレは元気です。先生も相変わらずですね」


冷静にオレも返した。