そんな中、梁瀬はCM撮影、雑誌のインタビュー、バラエティー番組出演と、過去を振り返るほど余裕もないほど、目まぐるしく忙しい毎日を送っていた。

タレントとして忙しくなるのは有り難いが、自分が目指している所とは違うような気がして、次第に悩むようになって行った。

海外進出!トップモデルの道がどんどん遠ざかって行く。

苦悩する梁瀬の前にある一人の男性が現れる。

その男はある企業の社長していて、平林正弘という。

始めは梁瀬に仕事のアドレスなどをしていたが、梁瀬は平林の仕事ぶりや、紳士的な振る舞い、自分の悩みを聞いてくれる頼り甲斐のある大人の男に、次第に惹かれて行った。

自分の世界にはなかった初めてのタイプだった。

梁瀬が望んでいた、海外進出の話にも意欲的に相談に乗ってくれ、サポートすると申し出てくれた。

何度も何度もその男と会い、心を通わせるようになり、そして深い関係にまでなって行った。

仕事でもプライベートでも良きパートナーと思われた。

梁瀬はもう仕事の事よりも彼「平林」に夢中だった。

初めての本気の恋?

自分でも信じられないほど、彼の事が頭から離れない。

淡い想いの中にその彼との結婚をイメージするようになり、甘い生活を想像した。

ゴシップ記事も梁瀬と社長の関係を嗅ぎ付け、話題となった。

けれど、そのお陰で彼の私生活を知ってしまうこととなった。

その平林は結婚していた。

梁瀬はそのゴシップ記事の「不倫」と言う二文字に、崩れ落ちた。



「あの人が裏切るなんて……きっと何かの間違いだ」


手は震え、鼓動が速くなり、足から力が抜けて、立つことも出来ない。

これほどの記事が出ているにも関わらず、まだ彼を信じようと頭の中がこの現実を否定しようとする。