それだけはない。

先生の心をもっと強く支えたのは、両親の存在だった。

あの事件から陰ながらそっと見守っていた早川先生の母。

そんな母から電話がかかって来た。


「元気してんの?大丈夫なん?仕事はどうなん?

あんたの事やから親に心配かけまいとして何も言うてこんのは分かってる。

冷静なあんたがそうな風にまでして思った人なんやろうから、よほどなんやろう。

お母さんはあんたがどんな子か誰よりも分かってるから!あんたの親何年やってると思ってんの?

どうしても無理やったら帰っておいで?お父さんもそう言うてる。

あんたの一人や二人くらい食べさせて行けるから、心配しなくていいから一度帰っておいで」


電話口から聞こえる母の声に涙が溢れ出た。

泣いているのを気付かれないように口を押えた。

でも母にはすべてお見通しだった。

自分を信じてくれる親にまで裏切った思いで、例えようのない苦しさが込み上げた。

親に心配、迷惑を掛けるわけにはいかないと先生は誓った。

信じてくれる人がいる、親の言葉はそれだけで自分を強くしてくれた。

とにかく何とか頑張ってみようと先生は再起を試みた。

何でもいいからと、大手スーパーのレジ係りの仕事を始めた。

過去の事も、事件の事も触れずに採用となった。

がしかし、そんな楽なものではなった。