୨୧ Shun side ୨୧
今日はここでのLIVE最終日。俺はベースのKyouyaと最後の打ち合わせをしていた。
みんな思い思いに楽器の音を出したり、歌ったり、色々確認をしたり…と、忙しそうにしている。
その時だった。リハスタジオの中からも聞こえるような大きな爆発の音と共に、数々の悲鳴も聞こえた。
ギターのHideki、そしてボーカルのYukiが口々に、
「なんだ、今の…!?」
「おいっ、まさかこれってファンの子の悲鳴じゃねぇだろうな?…」
最悪の事態を予想した俺らはメンバーと顔を合わせるなり、すぐに外へと出ようとした。
と同時にドアを勢いよく開けてスタッフのひとりが中へと入ってきた。
「おい、外で何があったんだよ!」
と、切羽詰まったYukiがスタッフに聞くと、彼は
「外で何者かによる爆発事故があったみたいなんです!恐らく、ファンの方も数名巻き込まれていますが…それは病院の人が対応してくれるはずですので、皆さんはこっちから逃げ───」
スタッフの声を聞き終わらないうちに、俺は無意識に叫んでいた。
「…は!?逃げる!?…ファンの子を見捨てて逃げられるワケねぇだろ!こんな時はアーティストもファンもカンケーねぇ。助けに行けばいいじゃねぇか!
おい、お前ら、YukiとHidekiは建物の中を見てこい!俺とkyouyaは外にいく!」
「おう。任せとけ!」
そんな頼もしい二人の声を背中に感じながら、俺らは煙と炎の中をかいくぐって外へと出た。
外に出た途端、俺たちは顔を顰めた。目の前の人混みがかなりの混乱状態になっていて、人にぶつからずに歩くのが精一杯だ。
幸い帽子を被っているのと、この混乱のお陰か、俺が誰なのかはどうやらバレないようだ。
そしてKyouyaが
「俺は向こうの方探すから、Shunはあっち頼むな!」
と言い残し、さっと人の山の中に消えていった。俺も突っ立ってる訳には行かない、と辺りを見回した。
すると───
行き交う人々の隙間から、倒れているらしい女の子がちらりと見える。俺はすぐさま駆け寄って、「大丈夫か!?しっかりしろ!!」と声を掛けて状態を見る。
意識がないのだろうか、その目は閉じたまま。すると彼女はうっすらとではあるが目を開けたのだ。…よかった。とりあえず意識はあるみたいだな。
するとその子は、
「しゅ……ん…?」
と俺の名を呟いた。その子のカバンには、ピンク色のドラムをあしらったキーホルダーが揺れていた。そっか…。この子、俺の…
…そりゃこんな近くならバレちまうよな。
「そうだよ、」と返事をしようと俺が口を動かしかけた時には、彼女は再び目を閉じていた。
あとは救急車の到着を…と考えていると、しばらく経った頃、事前に手配されていたのか、運良く現場へ現れた救急車から医者っぽい男の人が1人降りてきて、
「あなたは付き添いの方ですか?病院までついて行かれるなら乗ってください。」
と早口でまくし立てた。
俺は無意識に「はい」と返事をしていた。
そりゃあ、ここまで付き添っておいてあとは知りませんなんて、口が裂けても言えるわけねぇ。
…その前に、なんか放っておけねぇよな。
そうして俺は、この子と一緒に病院まで付き添うことにしたのだった。
୨୧澪 side୨୧
───なんだろう?この音…パトカーみたいな、救急車みたいな…遠くから聞こえてくる、、
だんだん大きくなってきた。
なにこれ、どうなってるの??
どうなって………る…
『───!?!?』
私は目を覚まして、バッと起き上がった…と同時に、身体中に痛みが走る。
『痛っ…』
どうやらさっきの痛みがまだまだ残っているみたい。
と、私は目の前の景色に違和感を覚えた。
包帯が巻かれた自分の右腕に、真っ白い布団、窓から見える景色───ここは…病院?
…しか、ないか。あんな大事になってたんだからさ。
たしか私、誰かに助けてもらったんだったよね…?誰だったっけ…えっと…
と、そこまで考えを巡らせていると、病室の奥のカーテンがゆらりと動いた。
『え…?そこに誰かいるの??』
恐る恐るカーテンの向こうへ問いかけた。
するとそこから、ひょこりと"ピンク色の髪の毛"が覗いて。
「あっ、起きたんだね。よかったよ…ずっと寝たまんまだったから心配だったんだぞ?」
その"ピンクの髪の毛の人"は私が昔からの友達かのように至って普通に話しかけてきた──
────え"っ??
『Shun!?!?!?えっ、あのっ…えっ、なんで…?あの…っ』
目の前には、あろう事かあのShunがいた。
幻を見てるみたい…
あっ、もしかしてShunがここにいるってことは…私を助けてくれたのはもしかして…
「ちょっと、落ち着いて落ち着いて。ここ病院。でもゴメンな、びっくりさせちゃって…さっきのこと、覚えてない?」
Shunにそう聞かれて、パニクりまくりの今にも破裂しそうなアタマで一生懸命思い出した。
『確か、バイト先の都合でおつかいに出かけてて…帰り道にProloguEのLIVE会場の前を通ったから…羨ましくなっちゃってさ。その辺をウロウロしてたんだよね…そしたら、爆発に巻き込まれて。』
ちらりとShunの方を見やると、なるほどね、と納得した様子で、
「そうだったんだな。俺らもリハーサル中だったんだけど、めちゃくちゃでけぇ爆発音が聞こえたから、外に出たんだ。そしたら、キミが倒れてたってわけ。」
Shunは私のベッドの隣の椅子にぽすんっとこしをおろした。すると彼の目線はちょうど私と同じくらいになって、目が合った。
───やばい、、カッコイイ…
このありえない状況を段々理解し始めた私は、次はなんだかものすごく恥かしくなってきて顔が徐々に熱くなってきた。
『そ、それで…Shunが私を助けてくれたの?』
もしそうなら…Shunは優しすぎる。
熱を帯びてきた真っ赤な顔を彼に見られては困るので、私は俯いたままで目だけ彼の方へ向けて聞いた。
「そりゃそーだろ!じゃなきゃなんで俺が
ココにいるんだって!もしかして忘れられちゃったか?」
そう言って ニッ と笑顔で笑うその口からちょっとだけ見える八重歯。私が大好きな彼のチャームポイント……あーっ、もう。いちいちカッコイイんだから…っ。
「ん?俺の顔になにかついてるか?」
急に真顔になったShunが自分の顔を指さして問う。
『えっ?いやっ、何もついてないよ??』
慌てて胸の前で両手を振る。
「ふーん…じゃあいいんだけど、どうしたの??」
ベッドの柵の上に両腕を置き、悪戯っ子のような目で私に聞くShun。
こういう時ってなんて言うんだっけ…??
まだ落ち着いてなさすぎて何も考えられない…
「…あっ、あの。助けてくれて、ありがとうございましたっ」
ぺこりと頭を下げる。
悩みに悩んだ挙句、口をついて出たのはそんな在り来りなコトバ。それでも、助けてくれたお礼はちゃんとしなきゃと思ったから、伝えた。
すると彼は「ふふっ」と微笑んで、
「どういたしまして。」
と私と同じように頭を下げた。
頭をあげたShunは、「あっ」と何かを思い出したような顔をして、
「そう言えば俺、キミの名前聞いてないや。なんて言うの?教えて?」
『雪野…澪だよ』
「澪ちゃんかぁ…可愛くて綺麗な名前だな。
俺はShun。有馬春人。ProloguEってバンドでドラマーやってます。よろしくっ。」
そう言ってから、「あっ、澪ちゃん知ってたか」と舌を出して笑った。
恐らく私のカバンに付いてたキーホルダーを見たから「知ってたか」と言ったんだろう。
私がShunのファンだなんてことはとうの昔にバレてたみたい。
知ってるのに細かく自己紹介しちゃうShunがなんだかおかしくて、私がぷっと吹き出すと、つられてShunも吹き出した。