クッキーを岸本くんに差し出して、震えることなく言葉にできた。


ちゃんと言えてよかった。

と、安堵する余裕は─────なかった。


練習を終えた直後、背後からドサッと何かが落ちる音が聞こえて弾かれるように振り返る。


目の前に現れた“相手”と視線が交わった瞬間、考えるよりも先に口が動いていた。


「凛くん………?」


名前を呼んだら落とした鞄を拾い上げてすぐに踵を返された。


え、なんで行っちゃうの。

どうして………と考えてすぐにハッとした。


今、私が岸本くんに告白したって勘違いされたんじゃ───。


「…………っ、待ってよ!」


急いで追いかけてブレザーの裾を掴んだ。

けれど、振り向いてはくれなかった。