試合は今まさにクライマックスを迎えていた。

夏の地区予選決勝、9回裏ツーアウト、1点差ながら塁は満塁。

観客席の応援団はお互いに声を振り絞って仲間達にエールを送っている。

そこに、冷静さを取り戻す様に会場にアナウンスが流れた-

「青森長田高校、バッターの交代をお知らせします、バッター橋本君に代わって代打中村君」

これまでの予選にも一度も試合に出ていない中村が打席に入った、
応援の声が響く中、バッターボックスで二、三度素振りをした中村が自軍のベンチを振り返った、

その視点の先には
ただ一人、マネージャーの崎本がいた。



(見てろよ、崎本…)



その声が聞こえたかの様にマネージャー崎本は瞼を閉じ下を向いた。


(中村くん…)

-二人の心の中に昨日のことが思いだされた-