またひとつ、真悠くんの優しさに触れられたことが嬉しくて。なんだか温かくて。
あぁ、好きだなぁ。
ほんとに、大好き。
「真悠くん」
真悠くんの袖をきゅっと掴んで、俯く。
「なんですか」
いつもよりほんの少しだけ優しいような気がするその声に、その手に、惹き付けられるかのように。
「あのね…」
こぼれて
あふれて
とまらなかった。
「すき…」
この想いを、とめられなかった。
「すきです…」
俯いたままそう言ったわたしの目に映る真悠くんのローファーがぼやける。
頬に伝うことなく下に舞う雫は、真悠くんのローファーよりも手前の地面に落ちる。
転んだわたしに優しく手を差し伸べてくれた温もりは、確かにここにあるはずなのに。
袖を掴めるくらい、こんなに近くにいるはずなのに、遠い。
そのたった1粒さえ真悠くんには届かなくて。
真悠くんのローファーにすら触れられない1粒の雫は、地面にじんわり広がって一瞬で溶ける。
まるで、今そこに落ちたこともなかったかのように。
いっそのこと、なかったことにしてしまいたかった。