目に涙をためたわたしにじいじは優しく聞いた。
『茉乃、どうしたぁ?』
その優しい声に導かれるかのように、絵本をじいじに渡して、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
『……じいじ……ごめ、なさぁい……ひっく……えほん、えほんがね……』
『ははは……茉乃、大丈夫だから、こっちをむいてごらん?』
じいじの優しい声に俯いていた顔を上げる。
『茉乃は、この絵本をわざと傷つけたんじゃないだろう?茉乃がいまごめんなさいって言ってるのは、大切にしたかったものを傷つけてしまったからだろう?でもな、茉乃が、本を大切にしようとおもってくれてただけで、じいじはうれしいんだよ』
じいじの声に涙がだんだんと引いていく。
『でもなぁ、わざとじゃなくてもよごしてしまったからな、じいじにじゃなくて、絵本をにごめんなさいしようかねぇ。守ってあげられなくて、ごめんなさいって』
ゆっくりと話すじいじの声にしっかり耳を傾けて、こくりと頷く。
『えほんさん、ごめんなさい。まもってあげられなくて、いたくしちゃってごめんなさい』
わたしのせいで転ばせてしまった絵本に謝ってそれを見ていたじいじは続けてこう言った。
『茉乃、よくきくんだぞぉ。おんなじお話がかいてある絵本でも、完全におんなじではないんだよ。お話を作った人、編集する人、印刷する人、それを売る人。ひとりひとりの想いがつまってる。それを茉乃はもっているんだよ。だから、ひとつひとつの本を、変わらずに大事にするんだぞぉ』
『うん……わかったぁ!』
『よし。茉乃はえらいなぁ』
そう言ってじいじは濡れてしまったせいでくしゃくしゃになった絵本をいつものように読んでくれた。
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