それが届いたのは
結華が告白される
五日前まで遡る。

ずっと連絡のなかった
叔母から手紙が来た。

内容を読んで
僕はその場で手紙を握り潰した。

グシャという紙特有の音が
一人のリビングに響いた。

その内容は《見合い》。

僕に恋人がいることを
知らなかったんだろうけど
それ以前の問題だ。

今の今まで
何の連絡もして来なかったのに
何故、見合い話を持ってきたんだか……

このことを結華に
言えないまま
あの日に戻る。

心に余裕がない中で
結華が告白されているところを
見てしまったから、
あの日は余計に落ち込んでしまった。

『柚夜、悩み事がありますよね?』

流石だね。

やっぱり、奥さんに
隠し事はできないね(苦笑)


『僕の悩み事、聞いてくれるかい?』

返事はわかりきっているけど
一応、訊いてみる。

『当たり前じゃないですか‼』

ほらね。

僕は叔母から来た手紙の話をした。

『その手紙が届いた時に
言ってくだされば
よかったではないですか』

なんとなく言えなかったんだよ……

内容が内容だったしね。

『あなたの叔母に
会いに行きましょう』

ぇ⁉ 結華? 突然何を……

『いいですか、あなたは
もう大人なんですから、
見合い話を直接断りに行くのですよ』

結華に言われて、はっとした。

そうだ、僕はもう
保護者を必要としている
未成年じゃないんだ。

それに、今は愛する人がいる。

平日はしていないけど
休みの日はお揃いの
指輪をして出掛けることもある。

叔母の所に行く時は
して行かなきゃね。

『その時は一緒に来てくれるかい?』

『当たり前なことを
聞かないでください』

呆れ顔で言われた。


―二ヶ月後―

僕達は叔母の家に
行くために電車に揺られている。

隣には勿論、結華がいる。

緊張しながら
叔母の家のチャイムを鳴らした。

「どちらさま?」

中から叔母の声がして
玄関が開いた。

『大丈夫ですよ柚夜、
私がついてますから』

開く直前、繋いでいる手から
緊張が伝わったらしく
結華がそう言った。

別にこの家で叔母達に
嫌がらせさを
されてたわけじゃない……と思う。

だって、大学生になった頃に
叔母に謝られたから。

それでも、すぐに
心の整理ができなかった。

七年という月日は
意外と長かった……

「柚夜、どうしたの⁉」

突然来たことに驚いている。

しかも、隣には結華がいる。

どう言おうが迷っていると、
結華が自分より長身の僕を
背に隠すように前に出た。

『今日は突然
来てしまってみません。

柚夜の《妻》で
居福結華と申します』

困っている僕を見兼ねて
助け船を出してくれたようだ。

『あの手紙の件を
直接断りに来たんです』

僕には結華っていう
大切な奥さんがいる。

話についてこれていない
叔母は玄関のドアを開けたまま
頭の上に疑問符を
浮かべて放心している。

一番の疑問は
結華の言った《妻》だろう。

いくら華奢とはいえ、
服も体型も男性だ。

「どういうことかしら?」

放心状態から正気に
戻った叔母が呟いた。

『そのままの意味ですよ』

僕は指輪が叔母に見えるように
右手で結華の左手を掴み、
自分の左手を上げた。

『結華は僕の《妻》で
僕は結華の《夫》です』

同性だとか関係ない。

『そういうことなので、
見合いの話は
お断りさせていただきます』

返事は聞かずに再び
結華の手を引いて
叔母の家を出て駅に向かった。

数日後、叔母から一通の手紙がきた。

内容は謝罪とたまには
帰って来て欲しいということだった。

追伸で帰って来る時は
結華も一緒にと書いてあった。

その手紙を一緒に
読んでいた結華は苦笑いした。