「あっ、お兄ちゃん…!」
「じゃあよく見えるとこに移動だね」
ぎゅっと手を繋がれる。
瞬時に先生の顔を見たら
「俺達、今デート中だよ?
こうしないと不自然でしょ」
…これはデートだったんですか。
全くその辺に意識が向いてなかったけど…
これはデートだったんですか…
「あ、こっち見た…」
「ちゃんと気付いてるか確認しててね」
だんだんと先生の顔が近付いてくる。
これは…ふり。キスの、ふり。
先生越しにお兄ちゃんが見える。
「…!」
私に気付いてくれたかな…
これでもう少しは私のこと意識してくれる?
作戦…上手くいったのかな?
…なんて、軽く考えていたのに。
「…ダメだなぁ、ゆずちゃん。
男にふりでもキスなんてさせようとしちゃあ…
これだから流されちゃうんだよ?男はみーんな狼なんだからさ」
数センチの距離でそう言われて、気付くと私の唇は先生によって塞がれていた。
胸を叩いてもビクともしない。
「ワルイコだなぁ…
好きな人を見ながら他の男にキスなんかされて」
そう言ってまた口付ける。
私の目は、
すぐそばの先生と
少し遠くにいる、目を見開いたお兄ちゃんを映していた。