「ようやく花音、笑ったな。俺といるとき、いっつもどっか困った顔、してたから」

「……え、」

「ま、俺の自業自得といえば、それまでなんだけど」



ほとんどひとりごとのようにそう言って、刹くんは再びメニューに視線を落とした。

ポカン、としてしまっているわたしに、「花音もデザート頼む?」とメニューを見せてくれる。



「あ、えっと……それじゃあ、クリームブリュレで」

「りょーかい。俺はパフェにしよ」



言いながら、彼は店員さんを呼び出すボタンを押した。



「花音、この後どっか行きたいとこある?」

「えっ? ……えーっと……」



突然話題を振られて、焦りながらも考える。

そして、もうすぐしおちゃんの誕生日だということに思い立った。



「あの、雑貨屋さん。友達の誕生日プレゼント、買いたいから」

「へー。わかった」



その『友達』がしおちゃんということは、何となく伏せておく。

……ふたりとも、あんまり仲良くないもんね。


そしてまだこの後があるのか、ということに対して、若干なんともいえない気持ちになる。

確かにわたしは、あの小学生の頃の思い出がきっかけで、男の子が苦手になってしまった。

それは奏佑先輩のおかげでなんとかマシになって、だからこうして今、刹くんともほとんど普通に話ができる。


……もしかしてわたしは、何か勘違い、してたのかなあ。

そう頭をよぎるくらい、目の前にいる刹くんは、“ヤサシクテ イイヒト”で。

ぐるぐると答えの見えない思考の渦に飲み込まれそうになったわたしは、それを振りきるように、冷たいお水でのどを潤した。