怒った口調で言った後、目尻に優しいシワを刻み、油の匂いが染み付いた台所でやかんを火にかける。

「それで、変わりなく過ごしているの?」

 久しぶりに訪れた実家は、四ヶ月前となにひとつ変わらない。

 家具の配置も、ほんの少し古びた匂いも、母の笑顔も。

 母親は小柄で痩せ気味だけど、頭髪はいつまでたっても豊かだ。若い頃は広がって扱いが大変だったというそれを、今は可愛らしいボブスタイルにしている。

 それでも実年齢よりも年嵩に見えてしまう彼女は、長年の過労が祟ったのか三年前に体を壊し、以来自宅でひとりきりで過ごすことが多くなっていた。

「母さんはどう? 北澤さんとは順調なの」