頑張ろう、とは思ったものの……
(どうすればいいかわからない…!)
放課後、さっそく体育祭実行委員会があるため私と高崎くんは会議室へ向かっていた。廊下を並んで歩いていると女子達の視線が痛くて、目で殺されるんじゃないかと思うくらいだった。ヒソヒソされているのに、高崎くんは慣れたものなのか?気にせず斜め前を歩いている。
「ねぇ、あれ、原田さんじゃない?」
「あの二人付き合ってるの?」
「なんで一緒に歩いてるんだろー」
はいはいはいはいわかってますよ不釣り合いだってことくらい!なんで一緒にって、実行委員会があるからですけど!ちなみに付き合ってませんから!
なんてギャラリーに言えたらいいんだけど、あいにく私はそんなことを言う勇気を備えていない。だからお近づきになるための行動を起こすようなこともできない。できるわけがない。こんなに高崎くんは注目されている存在である。だってもし、こんなにモテモテの高崎くんに、私みたいな彼女がいたらどうする?そんなの完全にいじめの的でしかない!
「…どうした?」
「え!?な、なんでもない!」
会議室につき席に腰掛けてからも、他のクラスの女子からの視線が突き刺さった。あまりに私が動揺しているからか、高崎くんは声を掛けてきた。「ふーん、変なの」なんて言ってるけどあなたのせいですからね…
「あ、凖也だー!」
私が冷や汗を拭いていると、扉の方から突然、髪の長い女子力高めな女の子が高崎くんの名前を叫んだ。
あれ…なぜ、呼び捨て…?
「凖也も委員会なの?一緒だ〜」
「………」
「もう、無視?普通にしてよ〜」
女の子は高崎くんの隣の席に座って、めちゃくちゃにボディタッチしていた。高崎くんは無視してるけど、女の子はそんなこと全然気にしていないみたいだし、ざわざわしていたギャラリーが更にざわざわしだした。
この子、何者…?
只者ではないことくらい私にだってわかる。なんせ、このモテモテ大人気な高崎くんととても親密そうなのだから。
私が驚いてその女の子をじっと見ていると、ギャラリーの中からこんな声が私の耳に入ってきた。
「うわ、田中さんじゃん。だいぶ前に振られたのにまだ諦めてないの?」
「高崎くんはもうアンタのものじゃないっつーの!いつまでも彼女気取りなんじゃない?」
———いつまでも彼女気取り?だいぶ前に振られた?
それってつまり……元カノってこと!?
正直驚いた。噂では彼女が何十人もいるって…まぁそれは誰かが流したデマでしかないことはわかっていたし信じてなかったけど。実際、彼女がいる気配は無かったし。つまり、彼女とかそういうのに興味がないのに騒がれたり告白されまくるのが面倒で流したフェイクだと思ってた、のに…(少女漫画の読みすぎかもしれないけど)
「まさかこういう子が元カノだなんて…」
思わず口から溢れてしまった。あまりにも衝撃的だったから。だって高崎くんはもっとこう、清楚でお淑やかな感じの女の子が好みだと思ってたんだけど。
私の声は小さかったものの、元カノさんには聞こえていたみたいだった。ずっと高崎くんに向けていた視線を今度は私に向ける。すごい、目が大きい…
「…あれ?凖也のクラスメート?」
「あ…はい」
「私、1組の田中咲。よろしくね」
「えっと…原田悠奈、です」
「あー!あなたが悠奈ちゃん!?」
いきなり自己紹介されて動揺したけど、私も恐る恐る自己紹介した。途端、大声を上げられて私は固まってしまう。
「すごいモテモテなんでしょ?かわいいしそりゃあモテるよね!まつ毛長いし色白だし、羨ましいー!」
何を言い出すのかと思えば田中さんは大声でそんなことを言うもんだからギャラリーがみんな私の方を見ている。こんな風に人に注目されたことがなかったし、恥ずかしくて顔が真っ赤なのを見られたくなくて下を向いた。褒められるのは嬉しいけど、周りに人がたくさんいるからやめてほしい…!
「———……咲」
「んっ?」
「やめろ」
「えー?なんで?」
「いいから自分のクラスのところ行け」
「………はーい」
急に高崎くんは口を開いた。見ていていたたまれなくなったのか、私を庇ってくれた。わちゃわちゃと騒ぐ田中さんを追い払って、溜息をついている。
これは……ありがとうって、言うべきだよね…?
「あの…ありがとう」
「なにが?」
「庇ってくれて」
「別に。アイツがうるさかったから黙らせただけ」
そ、そうですか…
本当にうるさかったから言っただけかもしれないけど、私はなんだか嬉しかった。こうやって不器用でも優しいから、モテるんだろうな。
「…………」
本当、モテる人と関わるとロクなことがないと実感することになるのは、もう少し先の話である———