「えー、皆もう知ってるだろうが今日うちのクラスに転校生がくる」

担任の河南先生が少女漫画のテンプレですかと問いたくなるような典型的な台詞を口にする。

河南先生は不思議な先生だ。
若くて優しいから人気の先生だけど、数学の先生なのにくたくたの白衣を着てるし、髪はぼさぼさで四方八方に跳ねてるし、めんどくさがり。

なのにイケメン。
大事な事だからもう一回。
河南先生は、イケメン。

…ほんとに、美貌の無駄遣いだと思う。

なんて考えている間にある程度の話は終わっていたらしい。

「夕暮、入ってこい」

「はい」

そう短く返事をして彼が教室に足を踏み入れた瞬間、女子の息を呑む音が聞こえた。

「夕暮翔琉です。趣味はバスケ、得意な教科は…地理。…よろしく」

そう言って少し彼は、ものすごく整った顔立ちをしていた。

さらさらの金髪に切れ長の目。
制服は校風を破らない程度に気崩されていて、ちゃんと全体的にバランスがとれている。

ふと今朝の人だかりを思い出す。

朝出来てた人だかりは、絶対この人のところに人来てたんだと思う。

改めて彼…夕暮くんの顔をまじまじと見てみる。


整ってる、なぁ…
もしかしなくてもこの顔は絶対、妄想できる!

離れた席へ期待に満ちた目を向けると、凜咲が苦笑いを浮かべている。

ふと夕暮くんの方を見たけれど、夕暮くんはどこを見るでもなく少しつまらなそうに教卓の前にたっていた。

…こっち見られてた気がするけど、気のせいか。